「塩分は少ないほどいい」とは限らない
高血圧や生活習慣病の予防では、塩分の取りすぎに注意することが大切です。一方で、塩に含まれるナトリウムは、体内の水分量や浸透圧を調整し、神経や筋肉の働きを保つために必要な成分でもあります。
塩は、完全に避けるべきものではありません。取りすぎず、必要な場面では適切に補うというバランスが重要です。
ただし、現在の日本人の食生活ではナトリウムの摂取量が多く、通常の食事をしていれば不足や欠乏が起きる可能性はほとんどないと、厚生労働省は説明しています。そのため、普段から不足を心配して塩を追加するよりも、まずは加工食品や調味料からの取りすぎに注意することが基本です。
塩分の目標量は、男性7.5g未満・女性6.5g未満
「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、成人の食塩相当量の目標は、男性が1日7.5g未満、女性が6.5g未満です。高血圧や慢性腎臓病の重症化予防では、男女とも1日6g未満が示されています。
この量には、料理に振りかける塩だけでなく、しょうゆ、みそ、めんつゆ、漬物、パン、麺類、ハム、練り物、インスタント食品などに含まれる塩分も含まれます。
自分では塩をほとんど使っていないつもりでも、汁物や加工食品、外食から多く取っていることがあります。
塩分が増えやすい組み合わせ
・ラーメンとチャーハン
・みそ汁と漬物
・パンとハム、チーズ
・丼物と汁物
・カレーと加工肉
・総菜とインスタントスープ
塩分不足が起きるのは、どんなとき?
一般的な食生活で塩分が不足することはまれですが、大量の発汗、長時間の激しい運動、炎天下での作業、繰り返す嘔吐や下痢などでは、水分とともにナトリウムも失われます。
また、低ナトリウム血症は、単純に塩を食べなかったことだけで起きるものではありません。短時間に大量の水を飲むこと、利尿薬、腎臓・心臓・肝臓の病気、ホルモンの異常などによって、体内の水分とナトリウムのバランスが崩れることでも起こります。
「塩を控えたら危険だから、普段から多めに食べよう」という考え方ではなく、体から大量に失われた場面で適切に補うことが重要です。
大量に汗をかいたときは、水だけでは足りないこともある
軽く汗をかく程度の日常生活であれば、水やお茶と通常の食事で補えることがほとんどです。しかし、汗で服がびっしょりになるほどの運動や屋外作業では、塩分を含む経口補水液やスポーツドリンクなどが役立ちます。
環境省の熱中症環境保健マニュアルでも、大量の発汗があった場合には、失われた塩分を補える経口補水液やスポーツドリンクなどが適するとされています。意識がはっきりしない、吐いている、自分で飲めない場合は、無理に飲ませず医療機関へ搬送する必要があります。
塩分補給を意識する場面
・炎天下で長時間作業した
・長時間の運動で大量に汗をかいた
・汗で衣服がびっしょりになった
・嘔吐や下痢が続いている
・医師から経口補水液などを勧められた
汗をほとんどかいていない普段の生活で、塩あめや塩タブレットを習慣的に追加すると、塩分の取りすぎになる可能性があります。
天日塩などの「天然塩」は、おいしい減塩に活用できる
一般的に「天然塩」「自然塩」と呼ばれている塩には、天日塩、平釜塩、にがりを含む海塩などがあります。商品によっては、塩化ナトリウム以外に、マグネシウム、カルシウム、カリウムなどの成分や水分が含まれています。
これらの成分や結晶の大きさ、湿り気の違いによって、単純な塩辛さだけでなく、苦味、甘味、まろやかさ、余韻など、味の感じ方が変わることがあります。にがりの主成分はマグネシウムで、ほかにナトリウム、カルシウム、カリウムなども含まれますが、その量や組成は製法や商品によって異なります。
風味のある塩を料理の仕上げに少量使えば、塩味と食感を感じやすくなり、おいしさを保ちながら使用量を抑える工夫になります。
塩の粒の大きさや溶け方は、塩味の感じ方にも影響します。研究では、細かい塩粒ほど素早く溶け、同じナトリウム量でも塩味を強く感じる可能性が示されています。つまり、減塩で重要なのは塩の名前だけでなく、粒の大きさや、料理のどこへ使うかという点です。
ただし「天然塩なら多く食べても大丈夫」ではない
天日塩や平釜塩にも、塩化ナトリウムは含まれています。マグネシウムやカルシウムなどを含む商品であっても、塩分の取りすぎによる影響がなくなるわけではありません。
天然塩を選ぶ目的は、塩を多く食べるためではなく、少量でもおいしく料理を味わうためです。
また、「天然塩」「自然塩」という言葉は定義が曖昧で、健康に良いという誤解を与える可能性があるため、現在の食用塩の表示ルールでは商品を直接修飾する表現として使用できません。「ミネラル豊富」という表示にも厳しい基準があります。商品を選ぶ際は、イメージではなく、原材料、製造工程、栄養成分表示を見ることが大切です。
製法で選ぶ「いい塩」の特徴
天日塩
海水や塩湖水を塩田へ引き、太陽と風の力を利用して水分を蒸発させ、塩を結晶化させます。粒が大きい商品は、口の中でゆっくり溶け、塩味の強弱や結晶の食感を楽しめます。
焼いた肉や魚、トマト、豆腐、サラダ、焼き野菜など、料理の表面に少量振りかける使い方に向いています。
向いている料理:ステーキ、焼き魚、サラダ、冷やしトマト、天ぷら、仕上げ用
平釜塩・釜炊き塩
海水や濃縮した塩水を、開放された釜などで加熱して結晶化させる塩です。商品によっては水分やにがりを含み、しっとりとした質感や、まろやかに感じられる味が特徴になります。
粒が料理になじみやすいため、おにぎり、汁物、煮物、蒸し野菜など、食材全体へ均等に味をつけたい場合に使いやすい塩です。
向いている料理:おにぎり、煮物、汁物、蒸し料理、浅漬け
にがりを含む海塩
海水から塩を取り出す過程では、マグネシウムなどを含む「にがり」が残ります。にがりの残り方によって、塩味のほかに苦味やコクを感じる場合があります。
商品表示で「にがりを含む」と表示するには、海水由来のマグネシウムが一定量以上含まれている必要があります。すべての海塩が同じ成分ではないため、栄養成分表示を確認しましょう。
向いている料理:豆腐、おにぎり、野菜料理、和食全般
藻塩
海水に海藻の成分を加えるなどして作られる塩です。海藻由来の風味やうま味が感じられる商品があり、魚介類や和食と合わせやすいのが特徴です。
塩味以外の風味が加わるため、少量でも味に奥行きを出しやすく、仕上げ塩として使う方法に向いています。
向いている料理:焼き魚、刺身、天ぷら、おにぎり、だし巻き卵
岩塩
地下の岩塩層などから採掘される塩です。粒が大きく乾燥した商品が多く、ミルでひいて料理の仕上げに使われます。
岩塩には色のついた商品もありますが、色が濃いほどミネラルが豊富で健康によいという意味ではありません。岩塩は商品によって塩化ナトリウムの純度が高いものもあり、「天然だから成分が多い」とは限りません。
向いている料理:肉料理、グリル料理、パスタ、焼き野菜
塩を減らすなら「料理の途中」より「仕上げ」に使う
煮物やスープに塩を大量に溶かしてしまうと、口に入ったときの塩味を感じにくくなり、さらに調味料を追加しやすくなります。
一方、料理の表面や仕上げに少量の塩を使うと、舌に塩が直接触れやすいため、少ない量でも塩味を感じやすくなります。
天日塩などの粒や風味を活かすなら、料理全体へ大量に混ぜるより、完成後に少量だけ振る使い方が効果的です。
おいしさを保ちながら塩を減らす方法
・塩は計量して使う
・仕上げに少量振りかける
・レモン、酢、かんきつ類の酸味を使う
・だし、きのこ、海藻のうま味を利用する
・こしょう、唐辛子、山椒などの香辛料を使う
・ねぎ、しょうが、にんにくなどの香味野菜を使う
・焼き目や香ばしさをつける
・麺や汁物のスープを飲み干さない
塩を選ぶときは、裏面の表示を見る
塩のパッケージには、原材料だけでなく、天日、平釜、立釜、乾燥、粉砕などの工程が記載されています。カルシウムやマグネシウムなどの成分を表示する場合は、食品表示基準に従った栄養成分表示が必要です。
塩選びのチェックポイント
・原材料は海水、天日塩、岩塩など何か
・工程は天日、平釜、立釜、乾燥など何か
・100g当たりの食塩相当量
・マグネシウム、カルシウム、カリウムの表示
・粒が細かいか、大きいか
・さらさらしているか、しっとりしているか
・料理中に使うか、仕上げに使うか
低ナトリウム塩という選択肢もある
塩分をより明確に減らしたい場合は、塩化ナトリウムの一部を塩化カリウムなどに置き換えた「減塩タイプ」「低ナトリウム塩」もあります。天日塩や平釜塩とは別の考え方で、ナトリウムそのものを減らせる商品です。
ただし、腎機能が低下している人や、カリウムに影響する薬を使用している人は、高カリウム血症の危険があるため、自己判断で使用せず医師へ確認してください。厚生労働省も、ナトリウムとカリウムの摂取比を考える重要性と、腎機能障害がある人のカリウム摂取への注意を示しています。
結論は「普段は取りすぎず、失ったときは適切に補う」
塩に含まれるナトリウムは、体に必要な成分です。しかし、通常の日本の食生活では不足よりも取りすぎが起こりやすく、塩を積極的に追加する必要は基本的にありません。
一方で、大量発汗、長時間の運動、嘔吐や下痢などによって水分と塩分を失った場合は、水だけでなく、状況に応じて電解質も補う必要があります。
普段は塩分を取りすぎない。
大量に失ったときは、水分と一緒に適切に補う。
天日塩や平釜塩などの製法にこだわった塩は、健康効果を期待して大量に食べるのではなく、風味や食感を活かし、少量でも料理をおいしく感じるために使うものです。
「いい塩をたくさん食べる」のではなく、「気に入った塩を少量、効果的に使う」。それが、おいしさと健康を両立する塩との付き合い方です。
高血圧、腎臓病、心臓病などで塩分や水分を制限されている人は、自己判断で塩分補給を増やさず、医師や管理栄養士の指示を優先してください。
参考情報
- 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」
- 厚生労働省「ナトリウム」
- 環境省「熱中症環境保健マニュアル」
- 食用塩公正取引協議会「食用塩の表示ルール」
- 公益財団法人塩事業センター「塩百科」


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