ため池は、波も流れも少なく、一見すると穏やかな池に見えます。
しかし、ため池の岸には急な斜面が多く、コンクリートやゴム製の遮水シートには水中の藻やコケが付着しています。足を踏み入れた瞬間に滑り落ち、一度水に入ると大人でも自力で上がれなくなることがあります。
農林水産省の集計では、令和7年度にも農業用ため池で21件の死亡事故が発生し、23人が亡くなっています。平成28年度から令和7年度までの10年間では、死亡者は合計241人に上ります。
30秒で分かる結論
ため池に落ちたら、滑る斜面を何度も登ろうとせず、まず呼吸を確保してください。
- 近くに階段、チェーン、安全ネットがあればつかまる
- 足掛かりがなければ、無理に斜面を登り続けない
- 仰向けになり、力を抜いて浮く
- 衣服や靴は無理に脱がない
- 大声で助けを求める
目撃した人は、すぐに119番通報してください。
泳いで助けに入ると、救助者まで溺れる危険があります。浮き輪、空のペットボトル、クーラーボックス、ロープ、長い棒などを陸上から渡してください。
釣りや遊びの最中に起きた実際の死亡事故
小学1年生が釣り中に転落
2022年4月、宮城県栗原市の農業用ため池で、友人たちと釣りをしていた小学1年生の男児が池に転落し、死亡する事故が起きました。
事故後に行われた市の緊急調査では、人が立ち入りやすいため池210カ所のうち195カ所で、フェンスや看板などの追加対策が必要と判断されました。
友人と釣りをしていた中学生が死亡
同じ2022年5月には、青森県弘前市のため池で、友人と釣りをしていた男子中学生が転落し、搬送先の病院で死亡しました。
事故を受け、青森県内ではため池の安全管理に関する緊急調査が行われています。
助けに入った人も死亡
2017年には大分市のため池で、釣りをしていた男性が池に落ち、助けようとして水に入った友人も溺れる事故が発生しました。2人とも死亡しています。
ため池事故で特に怖いのが、最初に落ちた人だけでなく、助けに入った人まで巻き込まれることです。
なぜ、ため池に落ちると上がれないのか
斜面が急で、足を置く場所がない
ため池は水を効率よく貯めるため、岸から水底へ向かって急な斜面になっている場合があります。
満水時には斜面が水中に隠れるため、岸から見ると浅く穏やかに見えても、少し入っただけで急に深くなることがあります。こども家庭庁も、ため池は斜面が滑りやすく、急に深くなる場所があるため、近づくこと自体が危険だと注意を呼びかけています。
コンクリートや遮水シートが滑る
ため池の斜面には、コンクリートや水漏れを防ぐための遮水シートが使われることがあります。
水中部分には藻やコケが付着しているため、足を置いても滑り、踏ん張ることができません。特に遮水シートは表面が滑らかで、つかめる突起もほとんどありません。
ため池の模型斜面を使った這い上がり実験でも、表面遮水シートや土の急斜面では、参加者の多くが登れませんでした。一方、足を掛けられるブロックや凹凸がある斜面では、全員が這い上がれています。
岸に手が届いても、体を持ち上げられない
水面から岸が近く見えても、濡れた斜面には手掛かりがありません。
腕だけで自分の体を引き上げようとしても、足が滑って元の位置へ戻されます。何度も繰り返すうちに腕や脚の力を失い、呼吸も乱れてしまいます。
そのため農林水産省は、安全ネット、救命用ロープ、浮き輪、昇降チェーン、足を掛けやすい張りブロックなどを、転落後の脱出を補助する設備として紹介しています。
自分がため池に落ちたときの行動
1.安全な足掛かりがあるか確認する
すぐ近くに階段、安全ネット、ロープ、チェーンなどがある場合は、落ち着いてつかまります。
ただし、何もない滑らかな斜面を無理に駆け上がろうとしてはいけません。足が滑る場合は、登る動作を続けるよりも、呼吸と体力の確保を優先します。
2.仰向けになり、浮いて助けを待つ
体の力を抜き、顔と目線を上へ向けます。腕と脚を広げ、空気を吸ってゆっくり呼吸してください。
日本赤十字社は、水に落ちた場合は無理に泳ぎ続けるのではなく、まず浮いて助けを待つことを勧めています。
3.衣服や靴を無理に脱がない
服や靴を脱ごうとすると、体勢を崩して顔が水中に沈む危険があります。
靴には浮力がある場合もあります。日本赤十字社も、着衣状態で落水した場合は衣服や靴を脱がず、浮くことを優先するよう案内しています。
4.声を出せるうちに助けを求める
岸にいる人へ向かって大声を出します。スマートフォンが使用できる状態なら、119番へ通報し、池の名称や近くの道路、建物などを伝えます。
声を出し続けて疲れる場合は、呼吸を優先しながら、手を振る、物音を立てるなどして居場所を知らせてください。
人が落ちたとき、絶対に飛び込んではいけない
目の前で家族や友人が溺れていると、反射的に水へ入ろうとしてしまいます。
しかし、ため池の斜面は救助する側にとっても同じように滑ります。泳ぎが得意な人でも、溺れている人に強くつかまれたり、岸へ上がれなくなったりする危険があります。
消防庁の資料には、池で溺れていた少年を助けようとして水に入った救急隊員が、救助活動中に溺れて死亡した事例も記載されています。
目撃者がすること
- すぐに119番通報する
- 周囲の人を呼ぶ
- 浮く物を投げる
- ロープや長い棒を陸上から渡す
- 落ちた人に「仰向けで浮いて」と声を掛ける
浮き輪がなくても、空のペットボトル、ふたを閉めたクーラーボックス、ボール、ポリタンクなどが浮力の助けになる場合があります。
棒やロープを差し出す場合も、岸から身を乗り出さず、ほかの人に体を支えてもらうなど、救助者自身が引き込まれないようにしてください。
「少しだけ釣りをする」でも危険
ため池事故は、水泳をしているときだけに起きるものではありません。
- 魚やザリガニを捕ろうとして岸へ近づく
- 落とした釣り具やボールを拾おうとする
- 写真を撮るため斜面へ下りる
- 犬が水辺へ行き、追い掛ける
- 草刈りや点検作業中に足を滑らせる
- 自転車や車ごと転落する
農林水産省の集計では、釣りや水遊びなどの娯楽中だけでなく、車両事故、管理作業中、農作業中、水難者を救助しようとした際の死亡も報告されています。
ため池事故を防ぐための対策
立入禁止の看板やフェンスを越えない
看板やフェンスが設置されている場所は、過去に危険性が確認されている可能性があります。
フェンスに隙間がある、扉が開いている、看板が古いといった場合でも、安全になったわけではありません。池の管理者や自治体へ連絡してください。
子どもだけで近づかせない
子どもには、単に「池に入ってはいけない」と伝えるだけでは不十分です。
「岸に近づくだけでも滑り落ちる」「友達が落ちても水に入らず、大人を呼ぶ」「釣り具やボールは諦める」と、具体的な行動まで繰り返し伝えておきましょう。
釣りや管理作業ではライフジャケットを着用する
ため池の近くで釣りや点検作業を行う必要がある場合は、ライフジャケットを着用し、できる限り一人で行動しないことが重要です。
池の管理者は、フェンスや看板だけでなく、転落後につかまれる安全ネット、救命ロープ、浮き輪、昇降チェーンなどが使用できる状態か定期的に確認してください。
まとめ
ため池は「泳げる人なら上がれる場所」ではありません。
急な斜面、滑りやすいコンクリートや遮水シート、水中の藻やコケが重なると、大人でも足を掛けられず、自力での脱出が困難になります。
落ちた場合は、足掛かりのない斜面を何度も登ろうとせず、まず呼吸を確保して浮き、助けを待ちます。
人が落ちた場合は、すぐに119番へ通報し、浮く物やロープ、長い棒を陸上から渡してください。助けるために水へ飛び込むと、死亡者が増える危険があります。
ため池から命を守る最も確実な方法は、立入禁止の有無にかかわらず、不用意に斜面や水際へ近づかないことです。
参考資料
- 農林水産省「農業用ため池の安全対策」
- 農林水産省「ため池の転落事故防止のための安全対策について」
- こども家庭庁「水の危険は近くにあります、みんなで危険回避!」
- 日本赤十字社「夏の水難事故から命を守る 水上安全法」
- 農業農村工学会「ため池の水難事故を想定した模型斜面の這い上がり実験」


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